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満月の夜 4

Auteur: 風野うた
last update Date de publication: 2026-03-04 17:59:16

 半年ほど前、カレン(カレン・マーレ・シュライダー侯爵令嬢)は、この占い館へ抱えきれない悩みを相談するために足を運んだ。その時に本物の占い師レダと初めて出会ったのである。

 しかし、レダはカレンの顔を見るなり彼女の相談内容も聞かずに自分の弟子にならないかと唐突に提案して来た。

 理由を問えば、カレンの未来を円滑にするためだとレダはいう。だが、その今一つ真意の分からない話にカレンは困惑してしまった。

(レダさんは、私に聞かせてはいけない重要な話を避けているのか、あまり詳しく説明してくれない……。だけど、弟子にならないかって話は私に占い師をさせようとしているということだよね?)

 ここでレダは、更にカレンへ畳みかける。

「あんたの置かれている状況をあたしは知っている。あたしはこれからあんたが幸せになるための準備をする。だから、入れ替わろうじゃないか!!」

「入れ替わる?」

(レダさんの弟子になって修行するのではなく、レダさんと入れ替わる? それって……)

「ああ、あたしがあんたの悩みを解決してやるよ。いや、この提案はあたしにも十分な利があるんだ。遠慮はいらない」

 こんな無茶な提案、普通のご令嬢なら間違いなく断るだろう。だが、カレンはレダの提案を真剣に受け止め、どうすべきかを考えた。

(正直なところ、あの人たちがいる屋敷にはもう戻りたくないわ。レダさんが、私の代わりに屋敷へ戻って、あの人たちをどうにかしてくれるのなら任せてみる?―――だって、私にはこの状況を打破する気力も体力も、もう残っていないもの)

 この時、カレンはもう限界だった。何が原因かと言えば、父であるシュライダー侯爵が一年前に後妻として迎えたレベッカとその連れ子エマからの激しい嫌がらせを受けていたからである。

 持ち物を奪われたり、罵られたりすることは日常茶飯事。その上、義妹エマはカレンの友達の茶会へ勝手に参加し、その高飛車な態度で度々揉め事を起こしていた。

 もちろん、エマは反省などせず、自分の主張ばかりを繰り返す。それでいて、先方へお詫びはカレンに押し付けてくるのだから、最悪だ。

(『お前の母親以外と結婚をすることなど絶対にない』と、あんなに頑なだったお父様が、急に再婚するって言い出しただけでも驚いたのに。まさか、あんな人たちが家族になるなんて……。―――それでも、彼女たちは貴族生活に慣れていないだけと思ってやり過ごしていたわ。だけど、流石にあの一連の事件は許せない!! あー、もう無理。顔も見たくないし、同じ空間にいるだけでも嫌だわ)

 一連の事件とは、半年前にカレンとその婚約者であるこの国の第一皇子アルフレッドの婚約がいきなり白紙に戻されるという事件から始まった一連の騒動のことである。

 一般的に、貴族同志の婚約は政略的なものが多く、当人たちの仲が冷め切っているということも良くある。しかし、カレンと第一皇子アルフレッドはわずか五歳で婚約を結んだ後、小さな恋が芽生え、それを大切に育んで来た。

 だが、それをしたたかな義母レベッカは見逃さなかった。

『屋敷に侵入した賊にカレンが辱めを受けた為、皇家には嫁げなくなってしまった』

 レベッカは自ら作り上げたデマを皇都の貴族たちへと流し、義理の娘を想って涙を流す母親役を見事に演じ切ったのである。

 この醜聞を知った皇家は、カレンに事実の確認することもなく婚約破棄を伝えて来た。

 カレンはアルフレッドへ真実を話す為、何度も登城したが、結局、一度も取り次いでもらえなかった。今まで仲良くしてくれていた皇宮の護衛達も手のひらを返したように、カレンを注意人物として扱ってきたのである。

 またカレンは友人たちに助けを求めた。だが、辱めを受けたご令嬢とは付き合わせたくないという親の意向で、彼女たちとも面会することすら叶わない。

 そして、更に追い打ちをかける発表が皇家から出される。それは第一皇子アルフレッドの新しい婚約者にカレンの異父妹エマが内定したというものだった。

 この一連の事件によって、義母レベッカと義妹エマに何もかもを奪われ、傷心に耐えかねたカレンは家を飛び出し、この占いの館へ向かったのである。

「レダさん、私はもうこれからどうしたら良いのかも分からないのです。入れ替わりでも何でも受け入れます」

「ああ、心配はいらない。私はあの女に少しばかりお見舞いしてやりたくてね。あんたの純粋な恋心の仕返しも一緒にしてやるよ。楽しみにしておいてくれ」

 レダは指をパチンと一度鳴らし、目深に被っていたフードを取った。

「レダさん、その姿……」

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